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札幌地方裁判所 昭和40年(ワ)1024号 判決

原告 大崎貢

被告 北海道技建工業株式会社

右代表者代表取締役 佐藤英二

右訴訟代理人弁護士 野切賢一

右訴訟復代理人弁護士 大島治一郎

主文

被告は原告に対し金一四万六、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

原告は、主文第一、二項と同旨の判決を求めた。被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求めた。

第二原告の請求原因

一、被告は、建設請負業を営む株式会社である。

二、原告は、昭和四〇年一月一五日左記約定により被告会社に副社長として雇傭されたものである。

給与 一ヶ月金八万円

雇傭期間 定めなし

三、被告会社代表取締役佐藤英二は原告に対し、昭和四〇年三、四月分の給与の内金として各金四万七、〇〇〇円宛の支払をしたのみで、残額各金三万三、〇〇〇円宛合計金六万六、〇〇〇円の支払をしない。

四、右佐藤は、昭和四〇年四月三〇日予告なくして原告を解雇した。

五、よって原告は被告会社に対し、右給与残額合計金六万六、〇〇〇円及び解雇予告手当として三〇日分以上の平均賃金である金八万円並びに右合計金一四万六、〇〇〇円に対する本訴状送達の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁

一、原告の請求原因一の事実は認める。

二、同二の事実中、原告が昭和四〇年一月一五日被告会社の副社長として、期間の定めなく就職したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告の給与は月額金四万七、〇〇〇円の約であった。また、原告は労働基準法第一〇条にいう事業の経営担当者であって、同条の使用者である。従って同法第二〇条第一項にいう労働者ではないから、解雇予告手当の請求権はない。

三、原告の請求原因三の事実中、昭和四〇年三、四月分給与として各金四万七、〇〇〇円宛の支払をしたことは認めるが、内金としてではなく、全額として支払をしたものである。

四、同四の事実は否認する。

第四被告の抗弁

かりに副社長は名目だけであって、実質は労働者であるとしても、原告は故意に、就職時の約束である経理事務の処理、会社諸規定の立案、資金繰りの交渉、セールス等について何ら効果的仕事をしなかった。従って、原告に帰責事由が存在するから同項但書後段の規定が適用される場合である。

第五原告の答弁

被告の抗弁事実は否認する。

第六証拠関係≪省略≫

理由

第一  被告会社が建設請負業を営む会社であること、原告が昭和四〇年一月一五日被告会社の副社長として、期間の定めなく採用されたことは当事者間に争がない。

第二  ≪証拠省略≫を綜合すれば、被告会社代表取締役佐藤英二は右原告を採用するにあたり、原告との間に、原告の月額給与として、基本給金六万円、手当金二万円合計金八万円とし、右の内手当金二万円の支給名目は右佐藤に委せるが、合計で金八万円を支給する旨約したことが認められる。≪証拠判断省略≫。そして、右佐藤が原告に対し昭和四〇年三、四月分の給与として各金四万七、〇〇〇円宛の支払をしたのみであることは当事者間に争いがないから、被告は原告に対し、右三、四月分の給与残額各金三万三、〇〇〇円宛合計金六万六、〇〇〇円を支払う義務があるというべきである。

第三  ≪証拠省略≫によれば、原告は被告会社の経理、庶務関係を担当する副社長ということで採用されたが、取締役に選任されたわけではなく、給与は、一般従業員と同様特別の報酬はなく前段認定の額であり、勤務時間も一般の従業員と同様であったこと、また採用の日である昭和四〇年一月一五日から同年二月末頃までは前記代表取締役佐藤英二の命令により、被告会社の総務、経理関係の規程類の起案に従事したが、原告が起案した規程類は、右佐藤が目をとおし、原告に何らの相談もなく、被告会社の実情にそわないとして一括不採用とされたこと、また同年二月頃から三月初にかけて、原告は右佐藤の命により、自己の前勤務先である訴外札幌綜合鉄工団地協同組合から金五〇〇万円の融資を受けるべく交渉に当ったが、同年三月上旬頃右組合から佐藤に対し、原告の給与が高額に過ぎるとか、原告が被告会社にいる限り融資はできないとの横槍が入ったことから、右佐藤により一方的に、三月分以降の給与は一ヶ月金四万七、〇〇〇円でよいとして、それだけしか提供を受けなかったこと、同年三月上旬頃から、原告は右佐藤により被告会社札幌支店勤務を命じられたこと、ところが、同支店に勤務するものは、原告の他に支店長一名のみであって、原告は同支店において、下請の組夫の失業保険、社会保険の手続をしたり、被告会社本店を士別市から札幌市に移転させるについての手続をした外、電話の取次、来客の応待、交通事故の処理に至るまで、一般の支店勤務従業員と異ならない雑務に従事していたこと、そうするうち、前記佐藤により、採用後僅か三ヶ月半にすぎない同年四月三〇日付をもって予告もなく解雇されたこと、右の頃原告に到達した書面には、解雇の意思表示とともに、「尚予告手当として給料一ヶ月分支給致しますが、貴方に御送金致したらよいか、又は貴殿当社迄御来社の上御受領下されるか、何れにしても宜しく御一報下さればその様に取計らいます。」との記載があること、原告は右解雇を承認し、二回に亘り予告手当の送金方を請求したが、その送金がないことを認めることができ、他に右認定に反する証拠は存しない。

以上の事実関係からすれば、原告は、被告会社の副社長ということではあったが、その実質は、被告会社代表取締役佐藤英二の指揮命令に服し、被告会社に使用され、賃金を支払われていたものというべきであり、なお被告会社の右解雇の意思表示は予告手当の支払もしくは現実の提供なくしてなされたものであって、労働基準法第二〇条の規定に違反するものであるが、原告においてこれをあえてとがめず、予告手当の支払のみを求めている本件においては、解雇を有効と認めて差支えないと解せられるから、被告は原告に対し平均賃金の三〇日分金八万円の解雇予告手当を支払う義務があるといわなければならない。

第四  被告は、原告が労働基準法第一〇条の事業の経営担当者として、同条の使用者にあたるから、同法第二〇条第一項にいう労働者ではないと主張するが、同法第一〇条は、労働基準法を遵守する責任を負い、従って監督機関の監督を受け、違反について罰則の適用を受ける者の範囲を明らかにするために使用者の概念を定義しているのであって、ある者が同条にいう使用者であるからといって、その者が同時に労働基準法の適用を受ける労働者でありえないわけではない。右第一〇条の使用者と同法第九条の労働者とは相排斥する概念ではなく、一面において経営担当者たる使用者として下位の労働者に対する関係で同法を守るべき責任を負うとともに、他面において、上位の者に対する関係で指揮命令に服し、同法の保護を受ける場合があるのであって、右第一〇条の使用者にあたるから同法第二〇条にいう労働者ではないという被告の主張は、主張自体失当であるし、前認定の事実関係のもとにおいては、原告はまさに、右にいう同時に使用者であり労働者である者ということができるから、被告のこの点の主張は理由がないというべきである。

第五被告の抗弁について

被告が労働基準法第二〇条第一項但書後段の規定により解雇予告ないし予告手当の支払を免れるためには、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇した」と主張しなければならないところ、被告は、原告が同条の労働者にあたるとしても、右但書後段の規定が適用される場合である(従って予告手当の支払義務はない)というに止まるから、主張自体理由がないばかりか、成立に争いのない甲第三号証には、前記第四に認定したごとく、解雇予告手当を支払うからその支払方法について一報してもらいたい旨の記載があるところからすれば、本件解雇の意思表示が右但書のいわゆる即時解雇の意思表示であったとは到底解することができない。また、右「労働者の責に帰すべき事由」とは、解雇予告ないし予告手当の支払なしに即時解雇されても仕方がないと考えられるほどの重大な職務違反ないし背信行為が労働者側にあった場合を指し、単に解雇に値する理由があったというのみでは足りないものというべきところ、前記≪証拠省略≫によれば、原告は他の職員と共に残業をしていたことも窺われるし、本件解雇の理由は、ただ原告の努力にかかわらず、前記鉄工団地協同組合の干渉、被告会社代表取締役佐藤との考え方の相違などから、右佐藤が期待したほどの成果が上らなかったというのみであって、原告に重大な職務違反ないし背信行為があったとは到底認められないから、被告の抗弁はこの点においても失当である。

第六  そうすれば、被告会社は原告に対し、給与残額合計金六万六、〇〇〇円及び解雇予告手当として金八万円、合計金一四万六、〇〇〇円並びにこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年一〇月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第七  よって原告の請求は正当であるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松原直幹)

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